医療・介護・福祉のお話

ALSという病気と、その治療の進歩について~ラジカット®内用懸濁液の勉強会を聞いて~

こんにちは、院長の内山です。

突然ですが、筋萎縮性側索硬化症という病気をご存知でしょうか?
初めて聞いたという方も『ALS』という略称でなら聞いたことがあるかも知れません。
私が専門とする脳神経内科は、現在医学で完治が困難な難病が多い領域ではありますが、「その中で治療が最も難しい病気をしいて一つ挙げるなら?」と問われれば、この病気の名前を挙げる脳神経内科医も多いのではないでしょうか。

ALSは筋肉を動かすための神経細胞(運動ニューロン)が少しずつ障害される難病です。
イギリスの理論物理学者のスティーヴン・ホーキング博士や医療法人会徳洲会を築いた医師、政治家の徳田虎雄氏など有名な方々が長年にわたって闘い続けた難病として知られています。
個人的な話ですが、自分が子供時代にNHKの教育番組で慣れ親しんでいた猫のキャラクター『ニャンちゅう』の声を担当されていた声優の津久井教生さんが、2019年にこの難病と診断されたとのニュースを聞いて、大変驚いた記憶があります。
津久井教生さんは今もALSと闘いながら、ブログで制限が多い中でも前向きにリアルな闘病生活を綴っておられるので、ぜひ読んでいただければと思います。
(津久井教生さんのオフィシャルブログhttps://ameblo.jp/kyousei-t/)

このALSですが、病気が進行してくると最終的には全身の筋肉がほぼ動かなくなり、自力での食事摂取や発語、呼吸も困難になります。
ですから、人工呼吸器や経管栄養、胃瘻などの医療機器の補助、接続を行うかの選択肢を迫られることになります。
一方で、視力や聴力、内臓機能、五感などは最後まで保たれる場合が多く、意識、記憶も障害されることは少ないです。

そのため、医療機器のサポートを受けながらであれば長期に生命を維持し、自宅で療養することが可能となっております。

また、言葉は話せなくても眼球運動は比較的保たれてるため、このような文字盤をうまく使うことで、目の動きで自分が考えていることを家族に理解してもらうことが可能です。


人工呼吸器や経管栄養のような医療行為を受けるか受けないかは、個人個人の人生観に基づくものなので、家族や主治医とよく相談した上で、後悔のないようよく考えて選択していただくのが重要と思います。

さて、以上のように大変な難病であるALSですが、ここ数年で新しい治療が出てきております。
その中でも、在宅医療の現場で非常に使いやすく、頼もしい「ラジカット®内用懸濁液2.1%」について、製薬会社さんと医薬情報担当の方をお招きし、院内勉強会を開催いたしました。
このお薬はALS患者さんの治療のために、2023年4月17日に発売されたお薬です。
元々ラジカットというお薬は、点滴静注製剤として脳梗塞の治療のために使われていたお薬でした。
これが医学研究の結果、ALSに対しても効果があるということが判明し、脳梗塞治療薬であった「ラジカット®注30mg」「ラジカット®点滴静注バッグ30mg」が、2015年6月26日からALS患者さんの治療にも使用できることになりました。
当時、私は脳神経内科医師として大学病院に勤務しておりましたが、この研究結果に大変衝撃を受けました。
それまで国内で使用できるALSの治療薬といえば長らくリルゾールというお薬ただ一つだけでした。
そこに、突然二剤目として今まで脳梗塞で使用していた治療薬の名が挙がってきたので、「まさか」という思いでした。
同時に不治の病と思われていたALSに対して、治療研究が前進したことを大変うれしく感じたことを覚えています。

あれから約八年、そのラジカットが内服懸濁液と言う新しい使い方で発売されたのです。
今まで点滴でしか投与できなかったお薬が、医療技術の進歩により飲み薬という選択肢も取れるようになったということであり、それはつまり通院が困難なALS患者さんにとって治療の幅が大きく広がり、負担がかなり軽くなったと言えます。
まだまだ根治治療が見つかるまで時間はかかると思いますが、ALS治療も日進月歩の勢いで進んでいることを感じさせる勉強会でした。